【勉強】製薬メーカーの仕事~研究職と開発職~

#44

2016年08月13日
 
僕が執務室から会議室へ戻って来ると、コトミは既に戻って来ていた。
薄い上着を一枚羽織っている所を見ると、冷房が効きすぎたのかもしれない。
設定温度を上げて、風を弱くする。
kotomi_kao
 
「ありがとう、ユキトくん」
 
yukito_emi
 
「どういたしまして」
 
 
自分で設定を変えれば良いと思うのだが、僕やマコトに気を遣ったのだろう。
女性の方が寒さに弱いらしいから、言ってくれれば合わせたのに。
yukito_muhyojyo
 
「ついでにこれ、あげる」
 
 
僕は、机の上から持って来たボールペンを差し出した。
電気を発する黄色いネズミのキャラクターが付いたやつだ。
コトミはびっくりした顔で僕を見て、それから微笑んだ。
kotomi_kao
 
「ありがとう。インクがなくなりそうだって気付いてたの? ユキトくんって、よく見てるよね」
 
yukito_muhyojyo
 
「普通じゃない?」
 
kotomi_kao
 
「ユキトくんがモテるの分かる気がする」
 
yukito_muhyojyo
 
「別にモテてないよ。マコトさんに何か聞いたの?」
 
kotomi_kao
 
「彼女さんがいるって。『相手はコトミちゃんじゃないよね!?』って確認されたよ」
 
yukito_muhyojyo
 
「ちゃんと違うって言ってくれた?」
 
kotomi_kao
 
「もちろん」
 
 
コトミが、僕のあげたボールペンをカチリと押して、メモにさらさらと試し書きをする。
kotomi_kao
 
「あ、これ書きやすい」
 
yukito_muhyojyo
 
「それは良かった」
 
 
と、微笑ましいコミュニケーションをとっている所に、マコトが戻って来た。
makoto_kao
 
「さあ、続きを始めようか」
 
 
今度は、製薬メーカーの仕事の中でも、研究職と開発職についての説明だ。
yukito_gimon
 
「研究職と開発職っていうのは、新しい薬を作る仕事ってことですよね?」
 

 

 
僕の解釈が合っているかどうか確認しようとすると、マコトは笑顔で頷いた。
kotomi_kao
 
「新しい薬を研究と開発……って、両方同じ意味じゃないんですか?」
 
makoto_magao
 
「新薬の開発は、基礎研究から創薬、動物実験などの非臨床試験をおこない、さらに人間を対象とした臨床試験を経て、ようやく承認されるんだ。
 この、非臨床試験までをおこなうのが研究職。
 臨床試験から承認までをおこなうのが開発職だよ」
 
kotomi_kao
 
「段階があるんですね」
 
 
メモにペンを走らせるコトミを、横目で見る。
早速あげた物を使ってくれる辺りが、良い子だなと思う。
makoto_magao
 
「じゃあ、研究職のお仕事について説明するね。
 まず、どんな新薬を開発するかを決める。
 設定された対象疾患にどういう作用をもたらすかという方向性を決めて、その作用を起こす物質を探す。
 その物質はひとつじゃないから、最も効用が高いものをスクリーニングで選び出し、そこからさらに化合物を合成するんだ。
 薬効と安全性などを分析して、動物を使った前臨床試験をおこなう。
 そこで基準をパスした物質が、一定の審査を経て、次の治験へと進むんだよ」
 
kotomi_kao
 
「むずかしいです……」
 
 
コトミは眉間にしわを寄せて困った顔をしている。
恐らくマコトは簡単に説明してくれたのだろうが、なじみのない言葉は分かりにくい。
yukito_gimon
 
「要するに、たくさん薬を作って実験するってことですよね」
 
makoto_bisyou
 
「そう思っておいてかまわないよ」
 
 
僕の言葉にマコトは微笑んで、次に行くことにしたらしい。
makoto_magao
 
「治験は開発職のお仕事だね。
 実際に人間に被験薬を投与して、有効性と安全性を確かめるんだ。
 順番に、少数の健康な人、少数の患者さん、多数の患者さんを対象にして試験をおこなうんだよ」
 
yukito_gimon
 
「投薬する相手が動物か人間かの違いが、研究職と開発職の違いということですか?」
 
makoto_magao
 
「開発職は、自分で投薬はしないんだよ。
 患者さんに薬を投与したり、血液検査をするのは医師じゃないとできないからね。
 医師に試験をお願いして、結果をもらうのがお仕事なんだ。
 だから、研究所で働いている研究職と違って、病院へ行って医師と会うお仕事になるね」
 
kotomi_kao
 
「なるほど。じゃあ、白衣は着ないんだ」
 
 
コトミは何やら納得した顔をしているが、そこは重要なのだろうか。
makoto_magao
 
「治験で良好な結果を出した被験薬のみが、厚生労働省の外郭団体である医薬品医療機器総合機構において科学的な評価と書類の審査を受けることができる。
 そこで承認されてはじめて、新薬として市場に出るんだ」
 
yukito_muhyojyo
 
「その新薬を使ってもらえるように医師や薬剤師に説明をするのが、MR職ですね?」
 
makoto_hohoemi
 
「そのとおり」
 
 
マコトは「よくできました」と言って笑った。
頭でも撫でられそうな雰囲気だ。
makoto_komari_2
 
「新薬の開発は製薬メーカーの社運がかかっている大事なお仕事だから、待遇は良いんだけど、薬剤師免許があれば誰でもなれるってわけじゃないんだ。
 最低でも、修士課程以上の学歴が必要になるね。
 すぐに結果が出せるお仕事ではないから、時間をかけて研究したいと思っている人に向いていると思うよ」
 
 
どのくらいの時間をかけるものなのだろうか。
僕の考えを読んだかのように、マコトが笑顔で答える。
makoto_magao
 
「ちなみに、新薬の開発には通常10年以上の歳月と、10億円を超える投資が必要と言われているよ」
 
yukito_odoroki
 
「そんなに!?」
 
makoto_magao
 
「成功すれば莫大な収益になるからね」
 
 
確かに、今までなかった薬を作るのだから、物凄いことなのだとは思うが……
10年以上同じことを研究し続けるのも、10億円という金額も、僕には全く想像出来ない。
makoto_magao
 
「研究職や開発職への転職は、とても難しいんだ。
 求人が少ないし、人気も高い。まったく経験がない人の転職は厳しいかもしれないね。
 でも、やりたい気持ちを抑えることはないよ。
 転職支援会社のコンサルタントに相談してみることが大事だね」
 
 
その際は是非、ひいらぎ転職所がお勧めする優良転職支援会社を利用して頂きたい。
makoto_hohoemi
 
「これで、薬剤師さんの職場説明は終わりなんだけど、働いてみたい職場はあったかな?」
 
kotomi_kao
 
「私はやっぱり、科捜研が良いです!」
 
 
目を輝かせて答えるコトミに、マコトは笑いかけた。
makoto_egao
 
「最初から変わらないんだね。コトミちゃんのそういう所、良いと思うよ」
 
 
マコトが僕の答えを待っているようなので、素直に「分かりません」と答えてみた。
確かに、色々な職場あることは分かった。
それぞれ、メリットやデメリットがあるのも分かった。
でも、実際に働いてみなければ、その職場が良いかどうかは判断出来ない。
yukito_muhyojyo
 
「でも、薬剤師という資格を持っていれば、色々な職場を選べるのは良いなと思いました」
 
makoto_magao
 
「うん。あとは、自分が何を一番大事にしているかだね。
 お給料なのか、お休みなのか、仕事内容なのか……人によって違うから、誰にとっても一番良いって職場はないんだよ。もちろん、人気がかたよることはあるだろうけれどね」
 
 
マコトはそう言って、会議を終わらせた。
次の勉強会の内容はどうなるんだろう。
少し楽しみになっている自分に驚いた。