コンシェルジュの服

#41

2016年07月22日
 
執務室へ戻って来たマコトに、目を向ける。
どうやら薬剤師との面談は上手く行ったらしい。
鼻歌交じりに自席に戻る彼は、資料を机の上に置いてから椅子を引いた。
転職相談というやつは、そんなに楽しいことなのだろうか。
僕がじーっと見つめていることに気付いたのか、マコトが着席する前に僕を見た。
makoto_gimon
 
「どうしたの? ユキトくん。僕になにか用事?」
 
 
別に用事があったわけではないのだが、そう訊かれると、何かを答えなければいけない気分になる。
そういえば……と、常日頃から気になっていたことを口にしてみた。
yukito_muhyojyo
 
「マコトさんって、いつも同じスーツですね」
 
 
バサバサと、マコトの机の上から資料の紙が落ちて散らばった。
makoto_odoroki_2
 
「あ、ああ、そう……だね。そうかもね。いや、うん。確かにそうなんだけど」
 
 
マコトは床に落ちた資料を拾いながら答えている。
明らかに動揺しているのだが、僕は何かまずいことを言ったのだろうか。
makoto_komari_2
 
「同じ……同じスーツだよね。そうだよね。そう見えるよね……」
 
yukito_syazai
 
「あの、マコトさん……?」
 
 
拾い終わった資料をまとめて、マコトは立ち上がった。
makoto_ikari
 
「ユキトくん!」
 
yukito_odoroki
 
「は、はい」
 
 
勢いに飲まれて、声が詰まる。
makoto_ikari
 
「このスーツはね、同じに見えるけど同じじゃないんだよ!」
 
yukito_syazai
 
「はぁ……」
 
makoto_manmen_no_emi
 
「僕は、同じデザインのスーツをいくつも持っているんだ。だから、毎日ちゃんと着替えている。汚くないから安心して欲しい」
 
yukito_muhyojyo
 
「いえ、汚いだなんて思ってません」
 
makoto_hohoemi
 
「それなら良いんだ」
 
 
それにしても、シャツやネクタイまで同じ物を買い揃えるとは、よほど気に入っているのだろうか。
makoto_kao
 
「ちなみに、ちゃんと季節で生地の厚みや質なんかも変わっているんだよ。見た目には分からないかもしれないけど」
 
yukito_muhyojyo
 
「そうなんですか」
 
 
マコトの語りがあまりに熱心なので、どうしようかと思っていると、横からカイトが口を挟んできた。
kaito_magao_2
 
「意外に気にしている部分らしいから放って置いてやれ」
 
yukito_muhyojyo
 
「気にしてるなら他のスーツを買えば良いじゃないですか」
 
 
うっかり思ったことが口に出た。
言ってはいけない言葉だったと気付いたのは、マコトが固まったからだ。
kaito_akire
 
「買いに行ったんだが、気に入らなくて買わずに帰って来たらしいぞ」
 
yukito_muhyojyo
 
「あ、そうなんですね……」
 
 
カイトの助け舟に、動きを取り戻したマコトが悲しげな目でこちらを見て来る。
makoto_komari_1
 
「似合わなかったんだよ。やっぱり、いつも同じスーツを着ているせいかな? 違うデザインのものはなんだかしっくり来なくて、僕らしさが消えてしまう気がしたんだ」
 
yukito_gimon
 
「まぁ、別に毎日同じスーツでも良いんじゃないですか。制服みたいなものだと思えば」
 
makoto_komari_1
 
「そうかな? 飽きられてしまわないかな?」
 
 
それが不安なのか。
僕に訊かれても分からないことなんだけれど。
yukito_muhyojyo
 
「大丈夫ですよ。カイトさんだっていつも同じスーツですし」
 
kaito_fukigen_2
 
「言っておくが、俺も毎日着替えているからな」
 
yukito_muhyojyo
 
「疑ってません」
 
kaito_gimon_1
 
「どうだか」
 
 
カイトは、ふん、とそっぽを向く。
彼の場合、毎日何を着るか考えるのが面倒臭くて、同じ物を買っているだけのような気がする。
恐らくこだわりはないはずだ。
クローゼットに同じ服ばかりが並んでいるのを想像すると気味が悪い。
いや、同じなのはスーツだけか……
yukito_muhyojyo
 
「じゃあ、お2人とも私服はどんな感じなんですか?」
 
kaito_magao_2
 
「別に」
 
makoto_magao
 
「普通だよ」
 
 
カイトとマコトがそれぞれ答えるけれど、答えになっていない。
普通の私服とは一体どういうものだろうか。
makoto_hohoemi
 
「どんな私服を着ていると思う? ユキトくん、想像してみてよ」
 
 
マコトが楽しそうに尋ねて来るので、考えてみた。
yukito_gimon
 
「マコトさんは、私服でも普通にワイシャツ着てそうですね。ポロシャツとかも着てそうですけど。それにチノパンとか穿いてそうです」
 
 
きっと色は淡い綺麗な感じだ。
yukito_muhyojyo
 
「カイトさんは、ジーパンにTシャツとかじゃないですか?」
 
 
きっとこの人は私服にもこだわりがないのだろう。
kaito_akire
 
「ずいぶん適当だな」
 
yukito_muhyojyo
 
「間違ってましたか?」
 
 
不満そうなカイトに尋ねると、返事がない。
どうやら当たったらしい。
マコトの方はどうだろうか。
makoto_hohoemi
 
「ユキトくんが僕たちに抱いているイメージは伝わったよ」
 
yukito_odoroki
 
「正解は教えてくれないんですか?」
 
makoto_komatta_egao
 
「色々着るから、こんな感じって言えないんだ。ごめんね」
 
 
マコトは申し訳なさそうに謝って、椅子に座った。
これで私服がとんでもなくダサかったら、イメージダウンになるんだろうな……