在宅訪問についての問題点

#40

2016年06月24日
 
僕が会議室で待っていると、カイトが先に入って来た。
マコトは途中でコトミに呼ばれたらしい。
kaito_fukigen_2
 
「今日は蒸し暑いな」
 
 
そう言って、エアコンのスイッチを入れた。
僕は立ち上がって、開けていた窓を閉めに行く。
yukito_muhyojyo
 
「カイトさんって、暑さに弱いんでしたっけ」
 
kaito_fukigen_2
 
「暑さに強い人間なんているのか」
 
yukito_gimon
 
「マコトさんとか」
 
kaito_akire
 
「ああ……あいつは暑苦しいからな……」
 
 
カイトがうんざりした様子で椅子に座った。
暑苦しいのと暑さに強いのは別問題な気がするが、特に突っ込まないことにする。
部屋が涼しくなってきた頃、ドアが開いた。
makoto_kao
 
「お待たせ! 会議を始めるよ!」
 
 
マコトが入って来た途端、部屋の温度が少しだけ上がった気がする。
これが暑苦しいということなのだろうか。
makoto_hohoemi
 
「この間ユキトくんが調べてくれた、在宅患者訪問薬剤管理指導について、僕とカイトくんが担当している薬剤師さんにメールしたんだ」
 
 
マコトの言葉を受けて、カイトが不機嫌そうな顔になった。
僕の仕事が甘いと説教をした挙句、それが自分に返って来たことを思い出したのだろう。
makoto_kao
 
「もちろん、メールを送っただけで満足しちゃいけない。
 今日は、ブログやメールを読んだ薬剤師さんからの意見について話し合いをするよ。
 まずは、カイトくん。薬剤師さんからなにか反応はあったかな?」
 
kaito_magao_2
 
「ああ。メールを貰った。
 薬局は、余分な人材を雇っていない。今の業務で精いっぱいなのに、どうやって訪問業務を行えば良いのかという質問だ」
 
makoto_magao
 
「そうだね。
 特に、薬剤師がひとりしか在籍していない薬局は、訪問のお仕事をしている間、薬局を閉めるしかなくなってしまう」
 
yukito_muhyojyo
 
「学生のバイトでも雇って、店番してもらえば良いじゃないですか」
 
 
うっかり口を出してしまうと、マコトが驚いたような顔をして僕を見た。
カイトが呆れたように溜息をついて、説明をする。
kaito_akire
 
「ドラッグストアと一緒にするな。
 薬局は登録販売者がいても、薬剤師不在時は第2類・第3類医薬品を販売することが出来ないんだ」
 
 
登録販売者?
また分からない言葉が出て来た。
ピンとこない顔をしているのが分かったのか、マコトが口を開く。
makoto_magao
 
「OTC医薬品を販売することができる資格を持った人のことだよ。
 薬剤師さんがいなくても、登録販売者がいれば一部のOTC医薬品を売ることができる。
 だけど、薬局は違うんだ。
 薬剤師さんがいないときは、薬局全体を閉めることが義務付けられているんだよ」
 
kaito_magao_2
 
「その義務は、在宅医療推進の妨げになるだろう。
 そこで、規制改革会議で薬剤師不在でもOTC医薬品が販売出来るようにするのはどうかと提言されていた」
 
makoto_egao
 
「それは素晴らしいことだね!」
 
 
カイトの言葉に、マコトはパァッと顔を明るくした。
どうやら良いニュースらしい。
makoto_egao
 
「登録販売者がいてくれれば、薬剤師さんは訪問のお仕事に行けるようになる。
 人手が足りない薬局でも、在宅対応することができるようになるんだ!」
 
yukito_muhyojyo
 
「患者さんも、薬局がずっと営業していたら助かりますね」
 
makoto_hohoemi
 
「そうだね。
 経営も助かると思うんだ。
 もうひとり薬剤師さんを常勤で雇う余裕はなくても、登録販売者を派遣で雇うことだってできるだろうし」
 
 
しかし、喜ぶマコトとは対照的に、カイトの表情は暗い。
というより、怒っているように見える。
yukito_muhyojyo
 
「何か不満なんですか?」
 
kaito_fukigen_1
 
「勘違いするな。この規制緩和は良いことばかりじゃない。
 隣の病院が休みの日には、患者が来ないから登録販売者だけで開局しておこうという薬局が現れる」
 
yukito_muhyojyo
 
「効率的じゃないですか」
 
 
僕の言葉に、カイトは苦々しい顔で舌打ちをした。
kaito_fukigen_2
 
「病院が開いていない時こそ、その代わりを薬剤師が担い、地域の医療を支えていかなければならないのに、これは薬剤師の役割を強化しようという医療行政に逆行しているんじゃないか」
 
 
そして、背中を椅子に預け、見下すような態度で机の上の資料を眺める。
kaito_fukigen_2
 
「OTC医薬品の販売も、薬剤師が行うことに大きな意味があるんだ。
 薬局ではかかりつけ薬剤師が推奨されているというのに、薬剤師が不在でもOTC医薬品を販売出来るようにするのは適切と言えるのか?」
 
 
確かに、患者が選んだ薬局で指名した薬剤師から薬を受け取ることを勧める一方で、薬剤師がいなくても薬を買えるようにするという規制改革は、矛盾しているように思える。
薬剤師は、処方薬とOTC医薬品の組み合わせが大丈夫なのかなどのアドバイスもするのだと、この間マコトから教わった。
患者側からしてみても、自分が薬を買いに行く時に薬のプロがいてくれた方が安心出来る。
makoto_magao
 
「カイトくんの言っていることもわかるよ。
 だけど僕は、この規制緩和は在宅訪問時の助けになるように考えられたものであって、病院の休みに合わせて薬剤師さんがお休みするためのものじゃないと思うんだ」
 
kaito_fukigen_2
 
「それをお前がそう思っているだけだ。実際に規制が緩和されたら、都合よく利用する薬局だってあるだろう。
 薬剤師が不在の時は薬局を閉めなければならない。それが義務付けられたのは、薬局に薬剤師が常駐することが重要だと考えられていたからだ。
 つまり俺は、規制緩和にはリスクが伴うこともあるんじゃないかという話をしている」
 
makoto_komatta_egao
 
「可能性は否定できないけれどね」
 
 
マコトは困ったような顔をした。
makoto_kao
 
「それでも僕は、少人数でがんばる薬局の手助けになると信じているよ」
 
 
キラキラした目をして語るマコトに、カイトは小さい声で「勝手にしろ」と呟いた。

 

 
結局、頂いた質問にどう答えるべきか、二人の意見がまとまることはなかった。
お互い、自分の考えがしっかりしているから、納得出来ないことには折れないのだ。頑固だとも言う。
しかし、それが両方間違っているわけでもない。だから、こういう時は各々の信念に基づいて対応することが許されている。
色々な考えの人間がいるのだから当然だ。

 

 
僕の意見も、少しだけ書いておくことにする。
正直、意見と言えるような立派な考えを持っているわけではないし、差し出がましいとも思っているのだが、自分が何を思ったのかを報告することが仕事だと、先日カイトに言われた。
高齢化に伴い、在宅医療が重要視されている中で、薬剤師の訪問業務はもはや避けられない。
それに合わせて制度が変わっていくのだから、まずは自分で情報を集めることが必要だと思う。
準備をしておけば焦ることもないし、早めに動いておけば、対応する時間も取れるのだから。
そして、そういった情報を提供することが、僕達のやるべきことなのかもしれない。

 

 
大変な仕事だと思いながら、僕はエアコンのスイッチを切った。