訪問薬剤管理指導の業務

#39

2016年06月17日
 
資料を整理して、会議室に向かう。
今日は、僕が訪問薬剤師について調べたことを発表しなければいけない日だ。
正直、気が重い。
意地が悪いカイトのことだから、僕が困るような質問をぶつけてくるに違いない。
いざとなったらネットで調べてその場で答えようと思い、ノートパソコンの準備もしておく。
一通りの準備が終わって溜息をついていると、会議室にマコトとカイトが入って来た。
makoto_hohoemi
 
「お待たせ。それじゃあ、始めようか」
 
 
マコトの微笑みに、プレッシャーを感じる。
僕は、息を大きく吸ってから報告を始めた。
まずは、前提条件からだ。
yukito_muhyojyo
 
「今は、高齢化社会で病院に通院することが難しい患者が増えてきています。だから、自宅や施設などに医者が訪問して医療を行う、在宅医療が重要です。
 でも、以前は訪問する医療チームの中に、薬剤師はいなかったんです」
 
kaito_magao_2
 
「在宅医療の現場に薬剤師がいないと何が問題なんだ?」
 
 
来た。
ここはカイトに突っ込まれると思ったので、答えを用意してある。
yukito_muhyojyo
 
「患者が薬を飲み忘れて、大量に余ってしまっていたり、薬の副作用で困っている時の対応が難しくなります。
 薬剤師が訪問すれば、患者の体調に合わせて薬の量を減らしたり、薬の形を変えたりすることが出来ます。
 たとえば、錠剤からゼリータイプに変えたりなどです」
 
 
カイトは無言で小さく頷いた。
どうやら納得してくれたらしい。
yukito_muhyojyo
 
「このように、通院出来ない患者のために、薬剤師が訪問して薬の管理などを行うことを、『訪問薬剤管理指導』と言います」
 
 
僕の調べたところ、マコトが言っていた「訪問薬剤師」という言葉は一般的ではないらしかった。
「薬剤師の訪問サービス」とか、「在宅患者訪問」というそうだ。
yukito_muhyojyo
 
「次に、業務の流れについて説明します。
 訪問薬剤管理指導の対象になる患者は、医師の指示があり、在宅で療養し、通院困難な患者です。
 患者から訪問を依頼されることもあれば、医師などから患者に提案する場合もあります」
 
 
言葉を区切って、マコトとカイトを見る。
特に何も言われないので、安心して先に進んだ。
yukito_muhyojyo
 
「薬剤師は、医師から診療情報提供書と処方箋を受け取ります。
 そして、患者に対して、薬の使用方法、届ける方法、訪問日時、費用、保険などを事前に確認します」
 
kaito_magao_2
 
「処方箋を受け取るのは、医師からだけか?」
 
yukito_syazai
 
「えーと、そうだと思うんですけど……」
 
 
どうだっただろうか。
開いておいたパソコンを触る。
makoto_magao
 
「訪問指示が記載された処方箋が、患者さんから直接薬局に届くこともあるよ」
 
 
マコトの言葉を聞いて、カイトが睨み付ける。
マコトは「しまった」という顔をして頬を掻いた。
makoto_komatta_egao
 
「邪魔をしてごめんね。続けてくれるかい?」
 
yukito_muhyojyo
 
「あ、はい。
 調剤後、薬を届けます。
 患者の自宅で、残薬状況、保管状況、併用薬などを確認します。
 患者の体調を把握して、薬の影響をチェックします」
 
kaito_magao_2
 
「患者宅へ訪問した際に生じる交通費は薬剤師が払うのか?」
 
yukito_muhyojyo
 
「いえ、交通費は患者側が負担します」
 
 
これは、在宅患者訪問薬剤管理指導料の概要に、注意事項として書いてあったことだ。
yukito_muhyojyo
 
「訪問時の患者の容体を、薬学的観点から医師に報告し、医師と相談の上、以降の療養に反映させます。
 以上です」
 
 
報告を終えると、マコトが微笑みながらパチパチと手を叩く。
makoto_hohoemi
 
「よく調べられていたね。ありがとう」
 
 
ほっと胸をなでおろしていると、カイトは「ふん」と鼻を鳴らした。
kaito_akire
 
「だが、まだ甘いな。
 言われたことだけを調べるんじゃなく、お前がそれを調べて何を思ったか、この業務にどんなスキルが必要なのか、そこまで調べてこその報告。それが仕事というものだ」
 
yukito_muhyojyo
 
「面倒臭そうな業務だなとは思いました」
 
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「そういうことじゃない」
 
 
素直に答えただけなのに、睨まれた。
恐らく、この報告がどんなものであっても、カイトは誉めたりしなかっただろう。
意地が悪いからだ。
makoto_magao
 
「じゃあ、僕たちはこの報告をまとめて、担当の薬剤師さんにメールをしよう。
 カイトくんは、それに加えて、患者さんのお宅に訪問する時、どんなことに気を付けなければいけないかや、どんなスキルが必要かなどについて調べておいてね」
 
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「!?」
 
 
マコトの指示に言葉を失うカイト。
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「そこまでの情報提供ができてこその『お仕事』だよ」
 
 
威圧感のある微笑みで、マコトは会議を終了させた。
ブーメランを食らうとはこのことだと思う。